2013年8月31日土曜日

菅平と雷

先日、関学大ラグビー部の菅平合宿に行ってきました。2年ぶりの菅平でしたが、2年前と同様、雨でした。しかし、今回は、雷を伴っており、かなり近いところで落雷があるような雰囲気でした。そのような天候の中で、流通経済大学との練習試合が行われました。試合前からかなりの雨と雷光、雷鳴があり、菅平のほとんどの練習試合は中止されてにもかかわらず、この試合は、強行されました。関学側としては、中止することをかなり強く申し出たようですが、ホストチームである流通経済大学のスタッフがどうしても中止に同意をしなかったようです。
 雷は非常に恐いです。雷鳴が聞こえれば、どんなに遠くても次には落ちる可能性があるそうです。(雷鳴は10Kmしか届かないが、落雷は20Km圏内で起きる可能性があるそうです。)
 アメフトでは、きちんとした取り決めがあり、雷鳴・雷光があれば、すぐに試合、練習を中止し、30分間は中断します。30分間、全く雷鳴・雷光がなければ、再開です。待っている間に雷鳴・雷光があれば、リセットしてそれから30分間は練習、試合は出来ません。
 ところが、ラグビーの世界では、日本協会の通達は何ともお粗末なのです。
2012年7月3日に雷注意報、警報の発令があった場合は直ちに練習、試合を中止する」と、画期的な通達を出したにもかかわらず、その2ヶ月後に落雷の危険性が高いと判断した場合は直ちに練習、試合を中止する。と何とも及び腰の通達に変更してしまったのです。すなわち、危険性が高いかどうかの判断は、現場にまかされ、その基準を明確にしていないのです。 なんと言うことでしょう。雷鳴が聞こえる中でも、「危険性が低い」と判断すれば、試合、練習の続行は可能なのです。どうやって危険性を判断するのか、気象予報士でもない現場の人間が判断できる訳がありません。今回も、流通経済大学のスタッフが「危険性が低い」と判断し、試合が強行されたのです。試合続行には、反対しましたが、結果的に、選手を引き上げるなどの行動を起こさなかった我々関学も、この試合続行に同意したことになります。もちろん、落雷はなかったので、ことなきを得ましたが、こういうことは、「結果オーライ」ではだめなのです。 
 現場にいた僕自身が、試合続行に関して強く抗議できなかったことをすごく反省しています。今度、このようなことがあれば、僕自身が矢面に立ち、その後チームからチームドクターを解雇されようとも、中止を強く訴えたいと思います。ちなみに、試合中、傘をさして観戦していたコーチのうち二人が、傘の支柱からほっぺたの方に静電気のようなものを感じたと言ってました。これって、小さな落雷?だったのでしょうか。

 年間に落雷での死傷者は15人程度だそうです。
これを、多いととるか、少ないととるかは人によるかと思いますが、スポーツ現場での落雷は完全に予防が可能なものであり、それを行わずに落雷を受けた場合、下記のように、試合の主催者側の責任が問われます。
大阪府高槻市で1996年8月、サッカー大会の試合中に落雷に遭って視力を失い、手足が不自由になるなど重度の障害を負った高知市の北村光寿さん(28)と家族が、在籍していた私立土佐高校(高知市)と、大会を主催した高槻市体育協会に約6億4600万円の損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決が17日、高松高裁であった。
 矢延正平 ( やのぶまさひら ) 裁判長は「落雷発生を予見することは可能で、サッカー部の引率教諭や市体育協会、大会の会場担当者らは注意義務を怠った過失がある」などとして、原告敗訴の1審判決を変更、将来のリハビリ費用を含む計約3億700万円の支払いを命じた。
 学校の課外活動中の落雷事故で賠償が認められたのは初めて。
 判決は「教諭や会場担当者らは生徒の安全にかかわる事故の危険性を予見し、防止する措置をとる注意義務を負う」と指摘。その上で、試合開始前に雷鳴が聞こえ、雲間の放電も目撃されていたことなどから、「雷鳴が大きな音でなかったとしても、教諭らは落雷の危険を具体的に予見できた」とした。
読売新聞より抜粋ー

 しかし、このような判決が出て、主催者側の過失が認められ、賠償を行い、責任をとっても、障害の残った方の障害は元通りにはなりません。その人の人生そのものが大きく変わってしまうのです。
 よく「私が責任を取るから」という言葉を聞きます。お金や社会的責任で対応が可能な事例であれば、それでもよいかと思いますが、身体に影響が残ること、ましてや命を奪われることに対しての「責任」とは何なのでしょうか。いくら「責任」をとってもその人の命は戻りません。後遺障害は治りません。これは、医療関係者にとっては、本当に重要な問題なのです。この雷の事例を機会に、医師として、もう一度「責任」というものを考えていきたいと思いました。
長々と失礼しました。



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